職場の生産性向上


掛け声だけで終わらせない 職場の生産性向上のために必要なこと~効率化の取り組みを定着化させる

 働き方改革ということで、職場の生産性について話題になることが多くなりました。生産性の向上というと、なんとなく目に付いたムダを削ることに注目してしまいがちですが、そのような場当たり的な対応だと取り組みが散発的になり、職場全体の生産性にはほとんど影響がないなんていうことになりかねません。

 そこで、本コラムでは、改めて「生産性の向上とは何か」「生産性向上のために必要なことは何か」について取り上げてみます。

 


生産性とはなにか

生産性は、次の簡単な式で示されます。

 

生産性=OUTPUT/INPUT

 

つまり、「INPUT(投入資源)からどれだけのOUTPUT(成果・産出物)を生み出せるか」ということです。INPUTの代表例は、時間や投入金額、人数です。一般的にはコストにあたるものです。OUTPUTは、付加価値額が用いられますが、売上や利益が典型例です。ただし生産部門なら生産数量、スタッフ部門なら処理件数などを用いるとよいです。

 

一般的には生産性を上げるためには、INPUT(時間やコスト、労力)を下げることばかり目が行きがちですが、別にINPUTを下げなくてもOUTPUTが増えれば生産性が上がることに注意してください。いや、INPUTが増えてもそれ以上にOUTPUTが増えれば、生産性は上がります。

 

本来、企業の目的は「OUTPUTを上げること」です。OUTPUTにあたる受注が増えれば、それをこなすので精一杯で無駄なことをしている余裕はなくなりますから、おのずとINPUTは削減されます。また、増えた利益を原資に省力化投資も可能となるでしょう。

 


生産性を上げるには正味の作業時間の割合を増やす

さて、多くの場合、生産性とは「労働生産性」ととらえていいでしょう。

 

1日8時間労働として、がっちり8時間作業をするということはまずありません。たとえば準備であるとか、ミーティングであるとか、待機や連絡待ちであるとかいった、直接的には作業とはいえないものもあります。それらを除いたものが正味作業時間です。

 

下の式は、1行目の式の分子と分母に「正味作業時間」を加えて分解したものです。「生産量/正味作業時間」は正味の作業スピード、「正味作業時間/労働時間」は正味作業時間比率になります。

 

労働生産性=生産量/労働時間

      =(生産量/正味作業時間)×(正味作業時間/労働時間)

 

 上の式に戻ると、労働生産性を上げるには、「正味の作業スピードを上げる」か「正味作業時間比率を上げるか」の2つの選択肢があることがわかります(両方上げてもいいです)。

 

では、労働生産性を上げるためには、どちらが有効なのでしょうか。もちろん「正味の作業スピードを上げる」のは大事ですが、ある程度仕事に慣れてしまうとこれ以上はスピードを上げられなくなります。むしろ「正味作業時間比率を上げる」に注目したいところです。無駄なミーティング、無駄な待機時間、非効率な準備作業といったことをやめるということです。こちらのほうがインパクトは大きいでしょう。

 


改善活動は定量化が必須

 最後に生産性の向上のために必要なことについて触れておきます。単に「ムダをなくす」という掛け声だけでは、効果は限定的です。職場全体での生産性向上のためには、次のステップを踏まえる必要があります。

 

1)向上したい職場の生産性を定義する

ひとことで生産性といっても、「時間当たりの処理件数を増やす」「設備の稼働率を上げ

る」「書類作成を効率化する」「設備の稼働率を上げる」「外回りの時間を増やす」など様々なものがあります。職場単位で取り組むためには、まずは「何を最優先すべきか」職場の中で明らかにする必要があります。

 

2)目標値を定める

「どれくらいの生産性の向上を実現するのか」目標値を定めます。目標値は「○○時間

(分)以内」「○○%削減」といったように定量化することが求められます。一般的にホワイトカラーの職場よりも、製造現場での職場のほうが生産性の向上が進んでいますが、それは目標を具体的な数値で示しているからです。

 

3) 状況を記録する

 たとえば、「どれくらい時間がかかっているのか」「時間当たりどれくらい処理しているのか」といったことを記録します。目標値と同様、こちらも数値で記録します。状況を数値で記録しなければ、客観的に状況を把握できず、その結果、進捗管理もできなくなります。

 


 生産性向上の目標値、目標達成のための具体的な手段、実際の進捗状況は、職場全体で共有するために、常に公開する必要があります。職場内で公開することで、メンバーそれぞれの知恵を出し合うことができ、さらなる生産性向上につながっていきます。

 

中小企業診断士 三枝 元

2019/11/3