中小企業診断士 馬場正博
新型コロナウイルスの流行が発生し、新しい日常の中で2度目の春が過ぎようとしています。製造業など景気回復基調が見られる一方で、対面サービスが主体のサービス業などでは厳しい経営状況が続いています。
将来が見えにくい現代は、VUCA(ブーカ)の時代といわれます。VUCAは
- 「Volatility:変動性」
- 「Uncertainty:不確実性」
- 「Complexity:複雑性」
- 「Ambiguity:曖昧性」
の頭文字からとった造語です。
生活様式や市場が激変している中で、どうやって企業は生き残っていくのか。
Withコロナでもアフターコロナでも、不確実で複雑、曖昧で変動する社会環境では、どんな業種でも先が見通せません。
日本を代表する大企業のトヨタ自動車が、車ではなく新しい街をつくる、などといった全く新しい取り組みを進めているのもVUCAの時代に生き残るという強い危機感があるからでしょう。
変化が早く不安定な世の中では計画的にものごとを進めることが難しくなっています。そのため、変化に合わせて素早く対応することが必要です。経営手法についても、従来のPDCAサイクルをまわす方法に代わって、OODA(ウーダ) サイクルという考え方が注目されています。
OODAは、
- 「Observe:観察」
- 「Orient:適応・見定め」
- 「Decide:決定」
- 「Act:実行」
のサイクルで行うマネジメント方法です。
最初に計画してから実行し、チェックするPDCAに対して、OODAは最初に観察し、見定めて決定、実行するという順番で、初めに計画するステップがないところが大きな違いです。不確実で曖昧な社会状況の中では、最初に適切な計画をたてることが難しく、また、変化する状況に素早く対応していくためには、観察して見定めるステップからはじめて、臨機応変に活動することがより重要ということになります。
もう一つ、最近よく耳にするキーワードにDX(デジタルトランスフォーメーション)があります。
DXはデジタル技術を活用したイノベーションで競争力をつけ差別化する戦略です。デジタル技術がどんどん進化しているので、中小企業にもDXを成し遂げるチャンスが広がっています。
伊勢神宮の参道にある老舗のえびや食堂は、AIの来店予測や売上管理などシステム化を徹底し、DXで5年で売上2倍、利益率4倍を実現しました。
神奈川の鶴巻温泉にある老舗旅館の陣屋は、年商2.9億円(’08年)の売上に借金10億というどん底の業績から、DXで年商5.6億円(’17年)と業績倍増しただけでなく、週3日の休館日を設けて社員の働き方改革まで実現しています。
いずれの事例ともに、経営者は最初にゴールと解決策を見極めていたわけではなく、自社の問題点、課題をなんとか解決していこう、そのために使えるものはとにかく使ってみようというスタンスでITの徹底活用に取り組まれています。
いずれの事例も驚異的な成果をあげていますが、資金や人財が豊富な大企業でなくてもデジタル技術を活用してイノベーションをおこすことができることを証明しています。VUCAの時代には、これまでの常識が通用しません。将来が見えないからこそ、現在の自社の課題、外部環境、技術革新を観察して、課題の解決にむけて出来るところから行動する。そこから御社のDXがはじまります。
以上