中小企業診断士 宮坂芳絵
夏休みの宿題。計画的にやったほうが分かってはいても、なかなか手を付けずに時間が過ぎ、ぎりぎりになって焦って取り組む・・・。健康診断で指摘をされ、ダイエットをしなくてはいけないと思いつつ、なかなか取り組まずに数年経過している・・・。
事例は違っても、同じような経験をされている方は多いのではないでしょうか?
人間は思っているよりも合理的な判断に基づいて行動しているわけではないことが分かっています。こうした「、「人の行動は不合理だ」という考え方をもとに、人の行動を分析し、小さなきっかけで人々の行動変容を促す手法「ナッジ理論」をご紹介します。
ナッジ理論とは
ナッジ理論は、シカゴ大学のリチャード・セイラー教授とハーバード大学のキャス・サンスティーン教授により、2008年に出版された『Nudge : Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness』で提唱されました。2010年には、イギリスの内閣府内組織として期間限定のナッジユニット(ナッジ活用を推進する公的組織)「The Behavioural Insights Team」(BIT)が設立しています。そして。2017 年にセイラー教授がこの「ナッジ理論」でノーベル経済学賞を受賞し、大きな注目を得て現在では、実社会の様々なシーンで利用されています。
ナッジは、「肘をつつく」「そっと後押しする」という意味を持つ言葉です。セイラー教授の書籍には象のお母さんが、子どもの象を歩かせるのに、後ろからそっと鼻で押すというのが象徴的なナッジのイメージであると書かれています。自由に歩かせつつも、ある方向性に導いて行動を促すのです。
このナッジ理論に基づいた手法はビジネスでも様々な場面で使われています。基本は、「小さなきっかけで人々の意思決定に影響を与え、行動変容を促す」ことですから、この小さなきっかけをどう作っていくのかがポイントです。
事例:小便器のハエ
もっとも有名なナッジの事例は1999年のアムステルダム・スキポール空港の小便器の「ハエ」です。
この空港では、男子トイレの床が汚れることが多く、清掃費が高く困っていました。そこで、小便器に1匹のハエの絵を描いたのです。
その結果、トイレの床を汚す人が少なくなり、清掃費を80%減らすことになりました。注意喚起だけでは難しかった課題をナッジで簡単に解決したという事例として知られています。
私たちの身近にも
私たちの身近なところにも、ナッジは使われています。
例えば、レジ待ちの並び位置には、足跡のステッカーが貼られていますね。
これは「Salience(顕著性)目立つものや関連性の高いものに注意を向ける」というきっかけを提供したものです。テレビのリモコンの電源スイッチを無意識にオンにしてしまうのも、スイッチの大きさや色が目立つためといわれます。
飲食店等でランチの一部を「今日のおすすめ」として表示するなどの例は、「Defaults(デフォルト):選ばなくていいのは最強の選択肢」という視点が使われています。
意思決定することは考えることが多く負荷がかかります。そこで、直観的に考えることを回避できる選択肢を用意しておく(考えなくても良いようにする)という考え方です。配送方法の初期設定を「置き配」にしておくなどもその例です。面倒な意思決定をする前に選択されているため、楽なのです。
まとめ
いくつかご紹介しましたが、ナッジには他にも様々なものがあります。興味があれば一度調べてみると、皆様のビジネスで使えるものがあるかもしれません。
ナッジは、もちろん万能ということではありません。しかし、小さなアイデアが大きな効果を生み出すこともあるという意味で、とても有効な考え方でもあります。
以上