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ペーパーレスになれば生産性は向上するのか?

中小企業診断士 馬場正博

 

ペーパーレスになれば生産性は向上するのか?

 

どうやって自社の生産性を向上するか、お悩みの経営者は多いのではないでしょうか?

 

生産性とは、インプット(投入量)に対するアウトプット(産出量)の比率のことですが、経営の指標としては労働生産性の数字などで評価されます。また、経済産業省のローカルベンチマークのEXCELシートを使えば、自社の労働生産性を同業他社と数字で比較することもできます。もし、同業他社に比べて労働生産性が著しく低ければ、他社と同じ水準以上の給与を支払うことできません。したがって、人手不足が加速し、すでに他業種とも人の取り合いとなっている時代に、やはり生産性向上は経営に欠かせないポイントです。

 

生産性向上は、まず生産性を見える化し、管理することが重要です。

 

経営品質の「デミング賞」でも有名なデミング博士は、

「定義できないものは管理できない、管理できないものは測定できない、測定できないものは改善できない」という言葉を残しています。

生産性を改善するには、生産性を定量的に明らかにして管理する、すなわちPDCAサイクルを回すことが必要です。

 

では、「生産性を管理する」にはどうすればよいでしょうか?

 

まず、測定するために、生産性を次のように定義します。

 

 生産性=付加価値/T(時間) 

 

この付加価値とは、限界利益のことです。限界利益とは、売上から変動費を引いたものですが、社外に支払う費用=生産性に寄与しない費用を差し引いた売上粗利に相当します。ただし、ここでは人件費は固定費として変動費に含めません。このため、製造原価に人件費を含めて計算する財務会計上の営業粗利とは異なりますので注意してください。

 

この付加価値=限界利益と固定費が一致するところが損益分岐点です。そして、稼いだ付加価値から固定費を差し引いて残ったものが会社の利益ということになります。

 

この付加価値は、製品やサービスを一つ売るたびに発生し、それを積み重ねたものが会社の利益です。よって、毎日の活動(Do)で付加価値が固定費を上回って利益がしっかりでるように積み上がっているか?を詳細に管理(Check)することで、生産性が目標(Plan)のとおりとなっているか、利益がどれだけでているのか、日々、数字で明確にわかります。もし、ここで付加価値が思ったように稼げていない場合には改善策(Action)をすぐさま検討し対策します。

 

どうやって改善すればよいか?は、まず付加価値が稼げない原因を分析します。例えば、製品やサービス別に販売数が足りていないのか、それとも製品・サービス別に付加価値(粗利、マージン)が低いものばかりになっていないかといった具合です。さらに、数量が足りないことが問題ならば、製造ラインを含むサプライチェーンのどこにボトルネックがあるのかを見つけ、そこに対策をうつことで改善を図ります。

 

「生産性」というと、生産能力が高ければ高いほどよい、とイメージしがちですが、売れないものをいくら作っても「作り過ぎの無駄」が発生するだけです。

市場にモノが溢れると価格は下がります。反対に希少価値の高い製品・サービスは高価格=高い付加価値で売れます。人口が減少していく時代に、そうした付加価値の高い商品・サービスを生産、販売することが、より生産性の高い企業となる一つの秘訣です。

 

そして、生産性の見える化は、ペーパレスの会社ならば簡単に実現できます。

 

ペーパーレスの会社は、製品・サービスを製造、販売する際の見積、注文、製造(調達)、出荷、請求といった業務がシステム化されていて、いつ、何をいくらで仕入れて、いくらで販売したかがデータとして日々収集されています。このため、毎日の付加価値を計算し、その推移をグラフにするといった見える化がITツールで簡単にできるためです。

 

他のシステムからデータを集めて経営情報として分析、監視するソフトウェアがBIツールです。プログラミングなしで使えるセルフBIには、マイクロソフトのPowerBIや、GoogleのLooker Studioといった無料で使えるサービスもあります。また、EXCELにはPowerQueryといったデータ収集、加工の機能や関数・グラフ機能も充実しているため、簡単なBIツールのような使い方をすることができます。このため、中小企業でも経営判断に必要な最新の情報を一覧で表示するダッシュボードを使って、リアルなデータで判断を行う経営手法=データドリブン経営が可能です。

 

紙伝票をデジタル化するほんとうのメリットは、データを活用して、データドリブン経営ができる会社になることです。

 

「生産性の管理」は完全なペーパレスでなくてもはじめることができます。生産性向上にお悩みの際には、ITを活用し、まずは時間あたりの付加価値の数値を集計、分析して生産性を見える化し、管理することからはじめてみてはいかがでしょうか。

以上