中小企業診断士 妹川 聡
1日あたり2,323人──この数字は2023年の日本における自然減少数(出生数から死亡数を差し引いたもの)です。
人材不足は、経営者にとって避けられない緊急の課題です。その背景には、少子高齢化による労働力の減少や親の介護といった家庭の事情が大きく関係しており、特に中小企業ではこの影響が顕著です。
また、人材不足は、燃料や材料の高騰といった経営課題とは異なり、「時間が解決してくれる課題」ではありません。今後も長期にわたり経営に影響を与える可能性が高い、構造的な課題です。
この状況に対処するために「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が注目されています。
しかし、多くの企業がDX化に取り組む際、まずITシステムの導入を検討しますが、これは適切な順序ではありません。
DX化を成功させるには、いきなり新しいITツールやシステムを導入するのではなく、まず「業務の標準化」に取り組むことが不可欠です。基盤が整備されていなければ、導入したシステムが有効に機能しないからです。
業務の標準化を進めるには、まず「業務の見える化」が必要です。
自社の業務プロセスを整理し、各業務にどれだけ時間がかかっているのか、どこに無駄があるのかを洗い出すことが重要です。特に、経営者は事務作業への関心が薄いため、標準化が進まないことが多く、その結果、多くの中小企業では担当者ごとに異なる「その人ルール」が存在しています。
このため、担当者が休んだり退職した場合に業務が滞ることがあります。この属人化を解消し、事務作業にも統一したルールを定めることが、DX化における重要なステップです。
また、業務手順だけでなく、業務の判断基準を整備することも重要です。
例えば、書類の承認基準を明確にしておくことで、全社的な共通理解が生まれ、スムーズな業務運営が可能になります。こうした環境が整えば、担当者が不在の場合や新しい人材が加わった際にも、業務が円滑に引き継がれ、人材不足のリスクが軽減されます。
また、DX化による自動化と効率化の効果も高まります。
DX化の第一歩は、システムの導入ではなく、業務の標準化とルール整備です。
この基盤が整わなければ、高額なシステムを導入しても期待した成果は得られません。まずは自社の業務を見える化し、属人的な業務を排除し、標準化を進めましょう。これにより、業務の効率化と安定した運営が実現でき、人材不足を克服し、強固な経営基盤を築くことが可能です。
人材不足は、一時的な課題ではなく、未来にわたり企業が直面する「長期戦」です。今こそ、持続可能な成長のための土台を整える取り組みを進めましょう。
以上