中小企業診断士 木村孝史
中小企業の人手不足は深刻な経営課題となっていますが、人材確保が困難になると生産性の低下や事業継続への不安などの様々なマイナス影響が懸念されます。東京商工会議所が会員事業者に行った調査によると、2025年新卒者の採用環境について「厳しい採用環境である(採用が困難)」と回答した企業の割合は96.4%に達し、採用に苦慮している様子がうかがえます。
このような状況に対し、「大手企業のような魅力が乏しい」、「とりあえず求人広告を出しているが大きな予算はかけられない」から応募が少ない、などといった感想をお持ちでしょうか?
求職者が中小企業を志望する理由には、「やりたい仕事に就ける」「会社の雰囲気がよい」「企業として独自の強みがある」一方、志望できない理由には「説明会等がなく情報が得られない」「大手と比べ社員の声を聞ける機会が少ない」といった声もよく挙げられています。
これらを踏まえると、中小企業側と求職者側には行き違いともとれるような情報の隔たりがあると考えられ、この距離を縮めることで応募者の増加が期待できます。取り組みやすい方法の一つに、求職者に直接会える場を増やし、自社の商品・サービスや仕事への興味を持ってもらうことを念頭に、求職者が知りたいことに積極的に答えていく活動があります。求人広告を出すよりも自社にアクセスする潜在的な求職者数は少なくなるかもしれませんが、自社を印象づけながらより深く理解してもらい、確度を高められる採用活動をご紹介します。
1.社長や社員の人脈の活用
社長には、所属する業界団体や学会等でご一緒に活動する方や、大学の後輩、研究室のお仲間などがいらっしゃると思います。その中でも普段の交流や共同活動などで関わりがある個人事業主やフリーランス等に向け、自社事業への参画から勧める方法があります。
また、リファラル採用(英語のreferralで推薦、紹介の意味)と言われますが、社員からの紹介を通じて採用する方法があり、社員には自社への紹介に伴う褒賞を与え協力を働きかけます。
いずれも人とのつながりを活かした手法で応募者数は限られますが、応募者の質や信頼性を確保しながら採用を促進する有効な活動です。
2.合同企業説明会への出展・参加
求職者にとっては一度に多くの企業に出会え、自社だけでは集客が困難な中小企業にとっては一度に多くの求職者に出会え、Webサイトや紙面では伝わりにくい自社の事業の特徴や魅力を対面で伝えられる貴重な機会です。
応募が見込まれる層が来場する説明会を選定して出展準備を円滑に進める必要がありますが、一方的に自社をアピールするのでなく、より多くの求職者と対話できる運営を計画し、仕事に取り組む強い意欲や自社事業への高い関心を示した方に次のステップへ促すことで応募への確度が高まります。
継続的な費用負担が可能であれば民間企業主催の説明会への出展がお勧めですが、求人を出したい学校や社員の出身校が主催する学内説明会へ参加し、学生や就職支援担当者と直接の接点を持つことで継続的な応募が期待できます。
3.インターンシップの受入れ
インターンシップは、在学中に一定期間、企業での就業体験ができるプログラムで、学生にとっては、社会に出る前に実務経験を通じて専門的なスキルや知識に触れ業界や企業への理解を深め、仕事への適性が確認できる制度です。中小企業においては、事業所内での業務を通じて自社の事業の特徴や魅力を直接伝えられ、早期に将来の人材を確保できる可能性が高まります。
受入れには学校との連携や受入前の準備などの負担を伴いますが、採目目的の活用だけでなく、例えば自社商品・サービスの情報発信の企画・実施をプログラムに盛り込むなど、本格的な実践の機会を提供して体験の価値を高め、新卒者と同じ世代の目線に合わせたPRや拡散につなげる取組も有効です。社内においてはインターン生との関わりの中で、自社商品や業務推進に関する新たな気づきや組織活性化につながるプラス面も期待できます。
ターゲットとする対象を絞り込み、特徴をアピールしながら各種の営業販促を通じて自社の商品・サービスを販売するマーケティング戦略と同様に、採用活動においても「当社のどの事業のために、いつどのような人材をどのような施策で採用するのか」といった戦略が必要になります。さらに、自社の持続的成長を見据えた組織人材管理の観点から、入口の募集・採用方法の見直しだけでなく、人材育成や働きやすい環境づくりの推進、業務の効率化などの課題解決に向けた取組の状況を、募集・採用の情報発信や面談の進め方に反映することが望ましいです。
求職者と直接対話する場を増やすことで、必要な人材を確保するために自社のどのような点を見直し強化を図るべきか、といったヒントも得られやすくなりますので、今後の採用活動でお試しいただければと思います。
以上
参考
「2025年新卒者の採用・選考活動動向に関する調査」(東京商工会議所 2025年3月)
2025年1月24日~1月31日にかけて、就職情報交換会の参加企業303社に対しWebアンケートを実施し、270社からの回答を集計した調査結果