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大阪で感じた顧客体験の大切さ

中小企業診断士 宮崎弘亘

 

最近の楽しみのひとつ

転職を機に上京し、20年以上が経ちました。

20代は故郷の大阪で過ごし、30代以降は東京暮らしです。

すっかり中年となり、何の自慢にもなりませんが、仕事終わりの安居酒屋でしっぽりひとり呑みする姿も板に付いてきたように思います。

とはいえ大して強い方でもないので、燃費がいいと言いますか、いつも経済的に仕上がっています。

 

20代は飲む習慣がなく、大阪の飲み屋街を歩くことはほとんどありませんでした。

いま思うと、少しもったいなかったような気にもなります。

そんな記憶の隙間をうめるかのように、たまの帰省や用事で大阪を訪れた際は、時間を見つけては飲み屋街に繰り出すのが楽しみのひとつとなっています。

 

大阪の文化と接客

もっぱら都心近郊でアクセスが良く、土地勘もある京橋あたりによく行きます。

場所柄か業歴の長い居酒屋も多いのですが、安くて美味しい酒や料理もさることながら、何より店員さんの軽妙でサービス精神あふれる接客にいつも感心させられます。

 

観察してみると、何か特別なことをしているわけではないのですが、「いらっしゃいませ」の挨拶や、注文を取る時の愛想がとにかく良いのです。

店を出るときは「おおきに、また来てください」とちゃんと再訪への期待をかけてくれます。これは客として意外と嬉しいもんです。

長年、呑兵衛たちに育まれてきた、人たらしならぬ客たらしの極意がそこにあるのかもしれません。

こういった接客の特徴は大阪に限ったことではないでしょう。

東京はもちろん、その土地土地に持ち味があります。ここでは故郷へのひいき目があるのかもしれませんがご容赦ください。

 

一般的に大阪はせわしない商売人の気質が影響してか、東京や京都に代表される付加価値文化とは異なり、薄利多売の文化が市井に根付いたと言われています。

食べ物であればたこ焼きや串揚げのように安くて美味しいは当たり前、そこに接客の良さや愛嬌があってはじめて顧客に長く支持されることが深く理解されているように思われます。

 

立ち寄った理髪店で

もうひとつ、最近大阪に行った時の話です。用事で訪れた商店街を少し散策していると理髪店を見つけました。

料金は良心的で、しばらく散髪に行けてなかったことを思い出し、立ち寄ることにしました。

 

そのあと別の約束があり時間が限られていたので、受付時に「3~40分くらいで終わりますか?」と確認したところ、問題ないとの返事でした。その店は、調髪、顔剃り、洗髪の担当者が順次入れ替わるシステムだったのですが、すべての人に私の時間が限られている旨がちゃんと共有されていました。

 

そのうちの一人、熟練の理容師とお見受けする方と話をすると、いつもお客さんを待たせないように工夫していると言われていました。

店の方針なのかも知れませんが、従業員にその意識が行き渡っていることにとても感心しました。

えてして格安店はスピード感が求められるためか接客が後回しにされている印象を持っていましたので、余計にそう感じたのかもしれません。

いずれにしても心地よい接客を受け、思わぬ体験価値を得ることができました。

 

ネット時代の今だからこそ

昨今、ネットの口コミを確認してモノやサービス、店を選ぶことがスタンダードになりつつあります。

私の出来事からも、リアルでの接客を通した顧客体験の提供はその店へのファン心理の高まりに寄与することがわかります。

 

一方で、星の少ない口コミを見ると、不満の原因が接客や従業員の対応にあるものも散見されます。

人材確保の難しさもあり、顧客目線での従業員教育といった視点まで行き届かない中小事業者も少なくありません。

 

また、IT技術やAIの浸透により効率的な手段に置き換えられる現場もあるでしょう。

今後も、様々な面で事業環境の変化が起こることも想定されます。

しかし、時代は変わっても人間は人間。人との接触によって感情が変化します。

ネット時代の今だからこそ、原点に立ち返って貴社らしい接客のカタチを再考されてみてはいかがでしょうか。

以上