中小企業診断士 妹川聡
【現状と危機感】
最近、経営支援の現場で強く感じるのは、少子高齢化・人手不足が企業にボディブローのように効いてきているという事実です。これは、今すぐ人手が足りなくて困る、という話ではありません。業績が好調な企業でさえ、従来のように人材を確保できなくなっており、「将来の人手不足」が事業拡大の足かせになる、という経営者の強い危機感が広がっています。
日本企業のオフィス業務には、今なお最適化されていない工程や無駄が数多く残っています。国際比較でも労働生産性は先進国最低レベルと言われています。にもかかわらず現場には「昔ながらのやり方」「非効率が当たり前」という空気が色濃く残り、そのため採用の現場でも若手に敬遠されがちです。実際、「若い人が定着しない」「採用してもすぐ辞めてしまう」という現場の声をよく耳にします。経営者としては、「このままでは会社の将来が危うい」と強い危機感を持たざるを得ません。
【改革を阻む二大障壁】
こうした現状を打破し、オフィス業務の生産性を向上させることは不可欠です。しかし多くの企業では「何から手をつければいいか分からない」「現場は現場に任せる」という停滞感が蔓延しています。その背景には、オフィス業務特有の二つの障壁が横たわっています。
一つ目はブラックボックス化です。担当者ごとのやり方やノウハウが暗黙知として蓄積され、管理者でさえ業務全体の実態を把握できないケースも少なくありません。「あの人にしか分からない」「マニュアルが形骸化している」「引き継ぎができない」といった属人化・非効率化が常態化しています。
二つ目は権限領域のズレです。問題が発生した際、発生部門と原因部門が異なっていると、解決に手を出しにくい状況が生まれます。例えば、経理部で起きたトラブルの根本原因が営業部にある場合、「他部門が口出しするな」となり、組織横断的な改革が進まなくなるのです。
【現場巻き込みのための仕掛け】
では、どうすれば現場は本気で動くのか。まず不可欠なのが業務の見える化です。業務プロセスや責任範囲、情報の流れを丁寧に棚卸しし、どこにムダ・ムリ・ムラ、そして権限のズレが潜んでいるのかを可視化し、関係者全員で共有します。
そのうえで導入したいのが「全員で目指す共通目標指標」です。これは、会社全体で本当に目指すべき最重要指標を明確に定め、全員がその方向に向かうための“共通言語”です。たとえば「顧客対応リードタイム短縮」や「一次回答率向上」など、具体的な指標を関連部門や個人に紐付け、「自分の業務がどう貢献するのか」を全員が理解できる状態を作る。こうして初めて、現場の「自分ごと化」が進み、部門や役割の壁を越えて行動が変わります。
【現場を動かすリーダーシップ】
共通目標指標を機能させるためには、経営者のリーダーシップが不可欠です。トップ自らが「なぜ今、変わらなければならないのか」「この目標指標を全員で追いかける理由は何か」を明確に示し、現場に直接語りかけ、日々の会議や評価制度にも一貫して反映させることが求められます。また、指標達成の事例や変化を全社で共有し、称賛することで現場のモチベーションと一体感を高める。リーダーの本気だけが、現場の「自分ごと化」を生み出します。
【まとめ】
オフィス業務の生産性改革は、今や企業の生命線です。ブラックボックス化と権限領域のズレという二大障壁を、経営者のリーダーシップ・業務の見える化・全員で目指す共通目標指標で突破し、現場を本気で巻き込んで「自分ごと化」による組織変革を成し遂げること。これこそが今後の人手不足時代を生き抜くための絶対条件です。改革は「トップダウン×現場巻き込み」の両輪がそろってこそ、初めて現実の成果となって現れます。
以上