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事業承継支援の現場から

中小企業診断士 中保達夫

 

2018年以降、政府は中小企業の事業承継を支援するため、様々な取り組みを行ってきました。その取り組みの成果もあり、事業承継における日本の現状も変わりつつあります。今回は、普段事業支援に関わる身として現場の支援状況を踏まえ書きたいと思います。

 

後継者不足はやや緩和傾向に

一時期は深刻な課題とされた後継者不在率ですが、2021年以降は徐々に低下傾向を示しており、国の支援策の一定の成果が見られてきています。ただし、依然として中小企業の約半数に後継者がいないというデータもあり、安心できる状況ではありません。

 

私が継続して支援してきたとある製造業では、長年にわたり後継者が見つからず悩んでいましたが、思い切って社内の幹部社員を後継者候補に育成する道を選びました。結果として、5年後には円滑な承継が実現したのです。

 

経営者の高齢化は益々進展

中小企業経営者の高齢化は年々進んでおり、2023年には経営者の平均年齢は60.5歳となり、過去最高を更新しました。特に70歳以上の経営者の割合が増加し続けている点は、今後数年のうちに多くの企業が事業承継の必要に迫られることを示唆しているでしょう。

 

支援の現場においても、「事業承継を進めたいが、後継者をどう確保すべきか」という相談は未だに多い質問です。

 

「同族承継」から「M&a」・「内部昇格」へ

これまでのように血縁者に事業を譲る「同族承継」は年々減少していて、代わって社内の幹部などを昇格させる「内部昇格」、もしくは第三者に事業を譲る「M&A」といった新たな承継スタイルが増えてきています。

 

特にM&Aは、ここ10年で取り組み・成約件数ともに堅調に増えており、必ずしも「売却=失敗」ではなく、「経営のバトンタッチ」という前向きな選択肢として定着しつつあります。

 

支援事例として、地場の卸売業が大手の同業者にM&Aで承継されたことで、販路・仕入れの安定と従業員の雇用確保を実現したケースもあります。

 

選択肢を持つことで未来を拓く

事業承継は単なる経営の「交代」ではなく、企業の未来そのものを決める重要な経営意思決定です。早い段階から本気で向き合うことで、「誰が」「いつ」「どうやって」受け継ぐかという選択肢を自ら主導できるのです。

 

一方、スタートが遅れれば、時機や手法、後継者が限られた中で「承継」そのものが困難になり、従業員や顧客、取引先にも大きな影響が及びかねません。

 

経営者が自社の未来図をしっかり描き、多様な承継スタイルを視野に入れて備えることが、今最も求められています。我々支援者も、現実的な選択肢を一つでも多く引き出すことで、中長期にわたる事業存続と発展を後押ししていきたいものです。

 

以上