中小企業診断士 池田明広
モノを売ることを新入社員の時からずっと考えてきた反動でしょうか、持続可能性(環境・経済・社会が将来にわたって維持・保全され、発展し続けることができる状態)にわずかでも貢献できないかと考え、カーボンニュートラル・脱炭素(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の仕事に少し取り組んできました。
トランプ政権のパリ協定(地球温暖化対策として採択された国際的取り決め)脱退もあり、関連するニュース報道も最近は減ったように感じていますが、このような流れの中でも中小企業が省エネに取り組む意味はやはり大きいと考えていて、状況を整理してみます。
価格転嫁の取組とセットで
エネルギー価格上昇への対応として、自社製品・サービスの値上げを必死に進めている方も多いと思いますが、それと比べ省エネに取り組む企業の割合は小さいようです(日本商工会議所・東京商工会議所 2025年度中小企業の省エネ・脱炭素に関する実態調査)。
一方、東京都の省エネ診断受診企業へのアンケートでは約8割の事業者が効果を感じ、電気・ガスの使用量を平均15~21%削減できたという結果が出ています。コスト削減は売上拡大に比べ目が向きにくい面もありますが(私もそうです)、削減額と同等の粗利を得るために必要な売上額も思い浮かべながら、取組の意味を考えていただければと思います。
支援と、機器の進歩をうまく活用
省エネ診断は行政が様々に取り組んでおり(東京都は令和7年度無料)、機器の運用レベル(使い方)の改善から設備の更新まで、専門家から提案・試算がまとめて受けられます(都では現地診断の所要時間が60-90分程度、報告書は最短で一か月後)。
また補助金もCO2(二酸化炭素)排出量の削減(例えば30%以上)等を要件に様々なものが準備されています(詳細は各内容をご確認ください)。
補助金は古い設備の更新だけでは対象にならないのが一般的ですが、国が国際的に約束した2050年カーボンニュートラルの目標達成・社会変革に向け、「エネルギー使用量・CO2削減のために」設備更新に補助金が拠出されている状況と言えます。
私も知って驚きましたが、機械の省エネ性能の進歩は目覚ましく、例えば10年超の空調設備の更新で要件を満たすケースもあるようです。もちろん一定の資金は必要になりますが、設備業者や専門家に相談しながら、この時代・機会を生かしていくのも一つの手であると考えます。
今後迫られていくさらなる対応
GX(グリーントランスフォーメーション)と言われる、カーボンニュートラル実現に向けた変革へ10年間で計150兆円もの投資が計画されており、先行取組メリットや財源の創出、変革促進の観点から、政府のロードマップには炭素に対する賦課金制度導入(化石燃料輸入者等を対象に2028年度から。いわゆる炭素税)の文言が記載されています。
またアメリカの動きと関連しパリ協定の今後に読みずらい面もありますが、エネルギー使用量・温室効果ガス排出量の把握・削減を顧客企業から求められる動きは、世界の状況を考えても製造業を中心に今後も強まっていくことが予想され(商工会議所の上記調査では製造業の5割近くが脱炭素へ取組)、先手をとって少しでも対応を進めていきたいところです。
できることから
販路拡大・人材確保・資金繰りと対応を迫られることは尽きず、マンパワーを考えて手がつかないという方も多いと思いますが、支援をうまく活用し省エネによるコスト削減を着実に進めている企業がいることも確かです。
取組のアピールを通じ社会意識の高い若手人材の応募が増えた、販路開拓につながったという相乗効果を伺うこともあります。
業種・規模や事業環境による状況の違いはもちろんありますが、太陽光等の再生可能エネルギーの購入・導入の前にできることがあります。従業員の意識向上も含め時間のかかる取組だけに最初から完璧を目指さず、まずは省エネ診断からでも取組を検討してはいかがでしょうか。