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製造業における原価計算 〜価格交渉を「勘」から「根拠」へ〜

中小企業診断士 小野和斗

 

今の価格、本当に適正ですか?

 

ここ数年、原材料費や電気代、人件費の高騰が続き、多くの中小製造業が利益を圧迫されています。しかしながら「取引先に値上げをお願いするのは難しい」と感じ、昔ながらの価格で仕事を受けざるを得ないケースも少なくありません。

 

その一方で、適正な価格を知らないまま仕事を受けてしまうと、知らず知らずのうちに赤字案件を抱え込んでしまう恐れがあります。価格交渉は「勘」や「相場感」ではなく、「根拠」をもって臨むことが大切です。そのはじめの一歩が、原価計算です。

 

中小製造業でもできる!シンプルな原価計算

「原価計算」と聞くと難しく感じられるかもしれません。しかし、中小企業でも簡単に取り組める方法があります。そのポイントが「チャージレート」と「総経費」です。

 

チャージレートとは?

チャージレートとは、1時間あたりの作業コストのことです。

 

例えば、従業員の給与や社会保険料を合算して年間人件費が500万円だったとします。年間の実稼働時間を2,000時間とすると、500万円 ÷ 2,000時間 = 1時間あたり2,500円がチャージレートとなります。

 

この金額に材料費や外注費を加えれば、おおよその原価が見えてきます。

 

総経費から考える方法

さらに精度を上げるには、会社全体の「総経費」も考慮に入れます。

 

年間の人件費・家賃・光熱費・減価償却費など、経営に必要なコストを合算し、それを年間の稼働時間で割ることで「会社として1時間稼働するのに必要なコスト」を算出できます。

 

これを踏まえれば、「最低限、この金額を下回って受注すると赤字になる」というラインが見えるようになります。

 

価格交渉は根拠をもって

価格交渉の際、ただ「コストが上がったので値上げしてください」と伝えるだけでは、取引先の理解を得にくいと思われます。とはいえ、上記の方法で算出した原価は、自社の状況を把握するのには役立ちますが、残念ながら外部へ提示するのは難しい場合が多いことでしょう。

 

そこで、埼玉県では、中小企業が材料費等の原価の上昇度合いを整理し、取引先に説明する際に役立つ「価格交渉ツール」を公開しています。材料費等が実際に上昇している度合いを明示することで、説得力が格段に高まります。

 

https://www.pref.saitama.lg.jp/a0801/library-info/kakakukoushoutool.html

 

自社のコストを「見える化」し、交渉の材料とすることは、持続的な経営を実現するために不可欠です。

 

まとめ

原価を把握せずに価格を決めることは、暗闇の中を走るようなものです。まずは簡単な原価計算から始め、数字に基づいた「根拠」を持つことが、適正な価格で取引するための第一歩です。

 

中小製造業の皆さま、ぜひ一度、自社の「チャージレート」を計算してみてください。そして、ツールや支援制度を活用しながら、根拠ある価格交渉へと踏み出していただければと思います。

 

以上