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「承認文化」を生かして組織の活性化を図る

中小企業診断士 産業カウンセラー 宮坂芳絵

多様化の職場が進んでいる

近年、職場は、国籍や性別、年代、雇用形態などが異なるさまざまなメンバーで構成されるようになってきています。そして個々人の持つ価値観も多様化しています。仕事では、こうした多様なメンバーと信頼関係を築きながら、組織から期待される成果をあげていくことが求められています。

 

多様なメンバーがいる中では、自分ひとりでは思いもつかない、ものごとの捉え方や見方に出会うことができます。情報を捉えるときの選択眼を磨くこともできますし、互いが持つ「知」を交換することで、今までにない「新しさ」を生む機会にもつながります。その意味では、こうした状況をプラスにとらえて関係づくりをしていく重要性について考えることも増えました。

 

「多様性を尊重してより良い職場をつくろう」という言葉は、その通りですが、実際は多様性によって人間関係がうまくいかなくなることも少なくありません。例えば、「伝えたつもりなのに、伝わらない」「目的は共有しているのに、その方法が折り合わない」「同じ情報を共有したはずなのに、解釈が違っていて意見が対立する」‥などです。

 

日本は、島国で同質化社会の風土を持っていることも少なくなく、多様性が進む状況をどのように受け止め、関係をつくっていくのかは、多くの企業で課題の一つとなっています。

 

こうした中で注目されているのが「承認文化」を生かす組織チームづくりです。承認とは、他者の意見や行動・存在を正当であると認め、受け入れる行為や状態を指す言葉です。そして、承認の文化とは、日常の小さな工夫や努力、誰かを支えた行動までを組織全体で認め合うことを習慣化する文化のことです。

 

承認文化の効果

承認文化の定着が有効であるという調査の一つとして、アンパサンド株式会社が実施した経営者・役員100名を対象にした、「企業の承認・称賛文化に関する実態調査」(2023年9月)をご紹介しましょう。

 

調査で「承認・称賛文化の組織づくりを行うことで、社員の定着率が改善されたと思いますか。」と質問したところ、

  • 「非常にそう思う」32.0%
  • 「ややそう思う」49.0%

と答えています。

実際の取り組みを見ると、

  • 「チームミーティングなどで良い事例を共有し、承認・称賛する時間を設ける」59.0%
  • 「承認・称賛月間など、イベント化して意識づけを強化する」31.0%
  • 「サンクスカードを用意し、良いと思った相手に渡す」28.0%

などが上がっています。

 

ご紹介した調査以外にも承認文化を生かす事例や調査は多数あります。様々な事例を分析すると、注目したい点があります。それは特定の人々の思想や意見が強く反映するような選考者の恣意性を排除している点、もう一つは選考基準がたくさんある点です。選考基準を多くすることで「だれでも頑張れば認めてもらえる」という安心感から褒める雰囲気づくりに役立ちます。

 

「褒める」という行為がプラスに働くとき、マイナスに働くとき

 エドワード・L.デシ(Edward L. Deci)らは、褒めるという行為がプラスに働くときと、マイナスに働くときに関して研究をしています。

 

●プラスに働くときは・・・

自分が社会や他者にとって役に立っているという「自身の有用感」につながる場合や、自己決定に関する情報につながる場合にはモチベーションを高めます。

有用感は、自分自身の考えで活動でき、それが挑戦になるときにより高く感じられます。例えば、仕事の場面において、自分で決めて自分で動き、悩みながら進めた仕事があるとします。その活動をきちんと見ていて褒められると「頑張ってよかった」とやり遂げたことに対する幸福感が高まります。また、そうしたことを積み重ねることで、他人の幸福や社会の発展に貢献しようと、責任感を抱くようになり成長していくのです。

 

●マイナスに働くときは・・・

一方で、デシらの研究では、権力関係があったり、感情が絡んでいるような相手から褒められる場合、また褒める側の思惑が見え透いているときは、動機付けにマイナスの影響がありました。

中でも仕事の場面で留意をしたいのが、権力関係がある相手から褒められる内容に対して、相手に自信が伴っていない場合やプライドが高すぎる時です。この場合、セルフ・ハンディキャッピングが生まれるといわれます。セルフ・ハンディキャッピングとは「自分から不利になる状況を作り出すこと」です。つまり、期待に応えなければならないがそれができそうにない、と強く感じる時、自尊心を守るためにわざと期待に応えられないことを正当化できるように予防線を張るのです。例えば、あえてできそうもない量の仕事を抱え込んで、「忙しい中では、ひとつひとつの仕事が満足にできなくても仕方がない」「こんな状況では失敗して当然だ」と思える状況を作り出します。

マイナスに働く要素を考えると、「誰が」「何を」「どのタイミングで」褒めるのかをしっかり見極めることは、重要であることがわかります。

 

まとめ

多様化が進む職場の中で「承認文化」を生かすことをご紹介しました。実は、日本の企業はヨーロッパやアメリカのように昔から多様化が進んでいる国に比べ、「承認」をする文化自体が定着していないといわれます。

 

実際に、筆者自身も様々な企業に伺うと「ほめて育てる」ことの重要性を認識しつつも、なかなか褒めてもらえない、当たり前と思われて感謝を伝えられたことがない‥との声を聞くことが少なくありません。また、日本では目立ったり自己主張したりすると、周囲からたたかれるような文化を形成している組織もあります。そのような組織は承認を抑制する効果が広がり、新しいことにチャレンジをしなくなります。

 

技術革新が大きく進み、変化が求められる時代になっています。変化に対応する力を培う一つのきっかけが「承認文化」への取り組みなのかもしれません。

以上