中小企業診断士 妹川聡
順調なはずなのに回らない理由
小さかった企業が成長し、売上が伸びると、従業員が30人、50人と増えていきます。やがて経営者に業務や判断が集中し、一人では回しきれなくなります。そこで部門を作って組織化を進め、管理職を置くなど体制を整えていきます。
体制が整えば、経営者としては「これで組織として回り始める」と思いがちですが、しかし、実際にはうまく回っていません。現場では統制が十分に取れず、判断基準は曖昧なまま残り、業務の属人化はむしろ進んでいきます。組織の形は整っている。しかし、機能していない。このズレが、「50人の壁」の本質です。
「50人の壁」とは、組織として運営すべき段階に入りながらも、運営が個人依存のまま止まってしまう状態なのです。
機能しない組織と管理職の実態
現実は、組織図はあっても実態が伴わず、業務は個々人に張り付き、管理職はプレイヤーとしての業務に追われています。その結果、マネジメントが手薄となり、組織としての機能が十分に発揮されていません。
その背景には、管理職の役割定義や教育が不十分であるという構造的な問題もあります。
マネジメントは自然に身につくものではなく、たとえプレイヤーとして優秀であっても管理職として十分機能するとは限らないのは、広く知られているとおりです。このステージの管理職は、成果が見えやすいプレイヤー業務に偏り、マネジメントは後回しにしがちなのです。
打開の鍵は「再配分」と「マネジメントの時間確保」
この状況を打開するためには、経営者が管理職を「つくる」という視点を持つことが不可欠です。その出発点となるのが、業務の再配分です。管理職がプレイヤーのままでは、マネジメントに必要な時間を確保することができません。
そこで、まず業務の棚卸しを行い、業務量と難易度の観点から再設計します。特に、低難易度で業務量の多い仕事は優先的に部下へ委譲し、組織として回る状態を構築していく必要があります。委譲とは単に仕事を渡すことではなく、仕事を分解し、適切に再配置することです。
こうしてマネジメントに向き合う時間を確保したうえで、はじめて管理職としての役割が機能し始めます。マネジメントの役割を定義し、判断基準を共有することで、マネジメント業務を明確な「仕事」として位置づけることが重要です。
管理職には、本来四つの機能が求められます。業務の進捗や品質を管理する「業務マネジメント」、部下の育成とチーム力の向上を担う「人財マネジメント」、方針を具体的な行動に落とし込む「戦略マネジメント」、そしてトラブルの予兆を捉え未然に防ぐ「リスクマネジメント」です。
これらは自然に身につくものではなく、意図的な育成が不可欠です。実務の中で段階的に役割を担わせ、振り返りとフィードバックを重ねることで、はじめて管理職としての機能が定着していきます。
50人の壁は「成長痛」であり転換点である
「50人の壁」とは、経営の失敗ではなく、企業が成長する過程で避けて通れない「成長痛」です。これまでのやり方が間違っていたわけではなく、前提が変わったに過ぎません。経営者の役割は、自ら動いて成果を出すことから、組織で成果が出る仕組みを設計することへと移行していきます。
企業が次の成長段階へ進むためには、この転換を受け入れることが不可欠です。「50人の壁」とは、会社が真に“組織”へと変わる瞬間なのです。
以上
