中小企業診断士 中保達夫
最近、いわゆるシニアと呼ばれる方々が非常に元気だと感じる。それは、私が関わる事業承継支援の現場でも同様である。「まだ元気だから」「もう少し先でいい」といった言葉を、経営者の方々から耳にする機会も増えてきた。
その一方で、支援の現場では「もう少し早く動いていれば」と感じるケースにも数多く直面してきた。そういった経験を踏まえ、今回は事業承継をテーマに書かせて頂きたい。
ある事業承継支援の現場で
最近関わった事業承継支援の事例である。
先代経営者は70代後半で、後継者は親族内にいるものの、具体的な引継ぎはほとんど進んでいない状況であった。「いずれは任せるつもり」との話ではあったが、日々の業務は心身ともに元気な先代がほぼ全て担っており、後継者は部分的に関わっている程度であった。
支援に入り、まずは業務の棚卸しや役割分担の見直しから着手し、段階的に権限移譲を進めていく計画を立てた。しかし、その矢先に先代の体調が急激に悪化し、想定よりも早く経営のバトンタッチをせざるを得ない状況となった。
準備の有無で大きく変わる
結果として後継者が経営を引き継ぐことにはなったが、十分な準備期間が確保できなかったこともあり、当初は意思決定に苦慮する場面が多く見られた。取引先との関係性や、これまで暗黙的に行われていた業務の判断基準など、引き継がれていない部分が少なからず存在していたためである。
一方で、もし数年前から計画的に引継ぎを進めていれば、状況は大きく違っていたのではないかと感じた。事業承継は“イベント”ではなく“プロセス”であり、時間をかけて進めることの重要性を改めて認識した事例であった。
なぜ後回しになってしまうのか
では、なぜ事業承継は後回しになりがちなのか。支援現場で感じるのは、「緊急性が低いが重要度が高いテーマ」であるという点である。日々の売上や資金繰りと違い、すぐに影響が出るものではないため、どうしても優先順位が下がってしまう。また、経営者自身にとって“引き際”を考えることへの心理的なハードルも小さくはない。
しかし、いざという時に備えるという意味でも、少しずつでも準備を進めておくことが重要である。
ドラッカーの言葉から考える
「事業承継は偉大な経営者と呼ばれる最後のテストである」
これは、事業承継支援に関するとある勉強会の中で紹介されていたドラッカーの言葉である。
経営者にとって、事業承継がいかに重要なテーマであるかを端的に表していると感じた。
事業承継は決してネガティブなものではなく、企業を次世代へ繋ぐ前向きな取組である。中小企業診断士として、経営者の想いに寄り添いながら、その伴走役を今後も担っていきたい。
以上
